青森地方裁判所 平成6年(行ウ)7号 判決
原告
大村正一(X)
被告
(三戸町長) 杉澤四郎(Y)
右訴訟代理人弁護士
宮森正昭
右訴訟復代理人弁護士
菊池至
"
事実及び理由
第四 争点に対する判断
一 前記争いのない事実に〔証拠略〕を総合すれば、以下の各事実が認められる。
1 三戸町では、新庁舎建設用地取得に際して、本件土地及び後記四二番一の土地上の建物三棟(本件建物1、本件建物2及び三戸町大字在府小路町四二番一所在の土地〔以下「四二番一の土地」という。〕上の藤村正之所有の建物)等一式について移転補償費を支払う必要が生じたため、右移転補償費の算定のため、土地の測量、設計、調査等を業とする会社であり、このような移転補償費の算定についても実績のある興和測量との間で、平成五年一〇月一五日、庁舎周辺家屋等調査業務委託契約を締結した。
2 公共用地の取得に伴う建物の移転補償費の算定については、東北地区においては、建物等移転料算定取扱要領(平成二年二月一六日付け東北地区用地対策連絡会理事会決定、以下「本件取扱要領」という。)によることとされている。これによると、算定方法の要旨は、建物の移転補償費(構外再築工法の場合)は、建物の推定再建築費に再築補償率を乗じて算出され、再築補償率は、再築による新旧格差を考慮するもので、建物の等級(耐用年数)と経過年数によって決定される。また、建物の経過年数については、本件取扱要領において、「公的書類(建築確認書、建物登記簿及び固定資産課税台帳等)あるいは建物所有者等から聞き込み等により判断するものとする。」と規定されている。
3 興和測量では、社員であり、土地家屋調査士、測量士の資格を有している大山陽一(以下「大山」という。)が右調査を担当することになった。
大山は、まず、本件土地、四二番一の各土地上の建物の登記簿を取り寄せた上で、現地調査に臨んだところ、本件土地上には、住居一棟(本件建物1)と住居兼倉庫一棟(本件建物2〔木造二階建居宅・倉庫、床面積一、二階とも各三三・一二平方メートル〕)が存在した。大山は、登記簿上本件土地に存在するとされている建物(四七番一の土地所在の家屋番号一〇二番、木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建居宅、以下「一〇二番の建物」という。と本件建物1とを比較したところ、床面積にかなりの相違(一〇二番の建物の床面積 一階 一一四・〇四平方メートル、二階 三三・〇五平方メートル〔一、二階合計床面積一四七・〇九平方メートル〕、現存する建物〔本件建物1〕の床面積 一階 一五五・八一平方メートル、二階 二七・四〇平方メートル〔一、二階合計床面積一八三・二一平方メートル〕)があったので、一〇二番の建物と実際に存在する建物の同一性に重大な疑問があり、建物登記簿では建物の経過年数を確認できないとの判断に至った(なお、本件建物2は未登記であり、固定資産課税台帳にも登載されていない。また、四七番一の土地には、建物登記簿上、もう一棟の建物〔同所所在、家屋番号記載なし、木造柾葺二階建居宅、床面積 一階 一一五・七〇平方メートル、二階六・六一平方メートル〕が存在するが、その甲区欄の順位三番に明治四二年九月二九日受付で亡工藤重吉のために所有権取得登記がなされた旨の記載があり、それ以後は全く記載がない。右建物と本件建物1、本件建物2及び一〇二番の建物との関係は、本件全証拠によるも不明である。)
このため大山は、本件建物等に居住していた工藤節子らから本件建物の経過年数を聴取したところ、本件建物1については三九年程度(昭和二九年建築)、本件建物2については二〇年程度(昭和四八年建築)との回答であった。大山が本件建物の現況を実地調査したところ、本件建物1については、外壁、内壁、屋根、床に使用されている部材が昭和二〇年代後半に使用されていたものであり、本件建物2については、外壁、内壁、屋根に使用されている部材が昭和四〇年代後半のものであった。右の結果から、大山は、工藤節子らの述べる経過年数はおおむね正しいものと判断した。
また、大山は、本件建物等の等級について、本件建物1を等級三(公庫建築程度、耐用年数四八年)、本件建物2を等級二(公営住宅程度、耐用年数三五年)とし、各建物の推定再建築費単価なども調査した。
大山は、これらの調査結果を前提に、本件取扱要領に基づいて、本件建物1の移転補償費を一六八五万八八〇〇円、本件建物2の移転補償費を六六二万八〇四〇円(合計二三四八万六八四〇円、いずれも構外再築工法によるもので、消費税を除く。)と算定し、さらに、工作物、立木、動産の移転補償、移転雑費の補償など合計約五〇〇万円を含めて、移転補償費の総計を消費税込みで二九四一万三九六五円と算定した。
なお大山は、四二番一の土地上の建物等一式の移転補償費については、二七二万九五〇〇円と算定している。
興和測量は、平成五年一一月一〇日、右の各移転補償費及びその算出経過を記載した「成果一式」(乙三)を三戸町に提出した。
4 三戸町では、新庁舎建設の担当部署である庁舎建設対策室が右「成果一式」を受領し、助役、被告である町長がこれを決裁した。
三戸町は、右興和測量が算出した移転補償額を上限として各建物所有者と移転補償交渉を行い、その結果、本件建物等については、工藤定男及び工藤康博との間で総額(本件建物の移転補償費の他、工作物、立木、動産の移転補償費、移転雑費等を含む。)二八八〇万円で合意に達し、平成六年一月二二日、右両名との間で、補償金額を二八八〇万円とする本件契約を締結し、同年二月七日、本件補償金二八八〇万円を支払った。
また、四二番一の土地上の建物については、前記興和測量が算定した移転補償額の八割程度の金額(総額)で移転補償契約を締結した。以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
二 右認定事実を前提に、本件建物等の移転補償費算出経過及び移転補償額の決定につき違法な点があったか否かについて、以下、判断する。
1 まず、本件建物の経過年数について検討する。
右認定のとおり、本件においては、本件土地上に存在する建物についての建物登記簿が存在するが、大山は、右登記簿上の一〇二番の建物の床面積(一階 一一四・〇四平方メートル、二階 三三・〇五平方メートル)と現存する建物(本件建物1)の床面積(一階 一五五・八一平方メートル、二階 二七・四〇平方メートル)との間に相違が見られたことから、一〇二番の建物が現存する建物と同一の建物かどうか疑問を持ち、本件建物等の経過年数を所有者等からの聴取結果と建物に使用されている部材から判断している。
この点、本件取扱要領には、建物の経過年数は、「公的書類(建築確認書、建物登記簿及び固定資産課税台帳等)あるいは建物所有者等から聞き込み等により判断するものとする。」と規定されているが、その趣旨は、右のような公的書類が存在し、その書類の記載内容が現存する建物の現況と慨ね矛盾しない場合には、所有者等の証言よりも公的書類の方が客観性を有することからそれによるべきであり、他方、公的書類が存在しても、その記載内容が現実に存在する建物の状態と矛盾するような場合には、建物の移転補償費は、現実に存在する建物に対して支払われるべきもので、右書類によって安易に経過年数を判断することは相当ではなく、右書類の信用性について慎重に検討するとともに、所有者等の証言や建物の現況等を十分に調査した上で、建物の経過年数を判断すべきとしたものであり、すぐれて「正当な補償」を具体化した細則といえる。
本件においては、本件建物1については、公的書類としては、建物登記簿と固定資産証明書(甲八、二〇)が存在するが、床面積において現実に存在する建物との間に無視できない相違が存在し、建物登記簿にはそもそも新築年月日が記載されていない(甲一)。また、右建物登記簿には、昭和一一年に死亡した亡工藤重吉(甲一一)の名前が表題部の所有者欄に記載されてはいるが(甲一)、これから直ちに本件建物1は昭和一一年以前から存在したもの、すなわち前記認定の大山が建物所有者等から聴取した建物経過年数及び現況の実地調査結果から判断されたその耐用年数をはるかに超えた、築後五八年以上も経過したものとは考えられない。したがって、建物登記簿等の公的書類だけから本件建物1の経過年数を決定することは相当ではないとした大山の判断は妥当であったものと認められる。
そして、大山は、本件建物の居住者工藤節子らから本件建物の経過年数を聴取し、右聴取内容が建物に使用されている部材の年代という客観的事実とも符合していることを確認した上で本件建物等の経過年数を判断しており、右部材が新築材料として使用されたか改築(修繕)材料として使用されたかという点については十分な吟味をしていないものの、全体としてみれば右判断に不合理な点は認められない。
以上より、本件建物1の経過年数を三九年、本件建物2の経過年数を二〇年とした大山の判断は妥当であったものと認めるのが相当である。
2 次に、大山は、右のとおり本件建物の経過年数を前提に、建物の等級、推定再建築費などから本件取扱要領に基づき本件建物の移転補償費を算出したのであり、右算出経過にも何ら不合理な点は認められない。
3 三戸町は、興和測量に建物移転補償費の算定業務を委託し、これに基づいて右のとおり大山が算出した本件建物等の移転補償費を前提に、移転補償費総額を上限として、本件建物等の所有者である工藤定男及び工藤康博と移転補償の交渉を行い、その結果、移転補償費総額の範囲内である二八八〇万円の本件補償金で本件契約を締結し、この契約に基づいて同額の補償費を支出したのであって、右経過に不合理な点や違法を窺わせるような特段の事情は認め難い。
4 以上のとおり、本件建物等の移転補償費算出経過及び移転補償額の決定について、違法な点は認められず、違法であるとする原告の主張は理由がない。
三 原告は、本件移転補償費の支払は、平成五年度の予算で前金払いにより支払われたものであるにもかかわらず、相手方は、平成六年四月以降も本件家屋に居住しており、これは、右前金払いが後年度にわたる経費に支出されたもので、地方自治法二三二条の三、同条の四、二一〇条に違反すると主張する。
この点、地方自治法二一〇条の定める総計予算主義とは、一会計年度におけるすべての収入を歳入として、すべての支出を歳出として予算に計上すべき(収入と支出を分離して総額を予算に計上すべき)とする原則を指すものであって、契約の相手方の債務の履行が翌年度に及ぶ場合に、前年度の予算で前金払いによって右契約上の債務を支払ったからといって、右原則に反するものではないことが明らかである。また、他に本件のような支払いが違法であるとする根拠はない。
したがって、原告の右主張も理由がない。
第五 結論
以上の次第で、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとする。
(裁判長裁判官 片野悟好 裁判官 森炎 柴山智)